自動思考は情況依存的

 認知療法・認知行動療法の研修やスーパービジョンを行っていると、非常に基本的なことであるにもかかわらず、なかなか理解されていないことがあると感じます。今回はそういったことの一つである、「自動思考とは?」ということをテーマに解説します。

自動思考とは何か

 認知療法・認知行動療法(CBT)では、考え方=認知を変えることによって不快な気分を和らげるという技法があります。これは認知再構成法と呼ばれており、CBTの最も典型的・代表的な技法であるといえます。
 しかし、認知再構成法においては、認知を変えるといっても、漠然とした認知を変えるわけではありません。ある状況で自動的に浮かんでくるような認知をターゲットとして、これを変えていこうとするのです。この認知を、自動思考と呼んでいます。すなわち、自動思考とは、いつもいつも考えているような認知ではなく、状況依存的な認知であるということができます。
 これに対して、状況に関わらず、いつも考えているような認知のことをスキーマと呼びます。もちろん、CBTにおいても、スキーマを対象として、これを変える介入もありますし、「スキーマ療法」といって、もっぱらスキーマを対象とするような介入方法もありますが、一般的なCBTにおいては、まずは介入の対象とするのは自動思考である、ということになります。

状況依存的とはどういうことか

 自動思考が状況依存的であるというのは、どういうことなのでしょうか? これは、自動思考は具体的である、ということなのです。すなわち、ある特定の、具体的な状況のもとで生じた具体的な認知である、ということなのです。
 この点を理解されていない専門家がいるように感じています。CBTで介入のターゲットとなるのは、あくまでの自動思考であり、特定の具体的な状況をどのように捉えたかという認知なのです。
 ですから、「その自動思考の根拠は何ですか?」というような質問が、介入法として効力を発揮するのです。この質問の意図は、「あなたはこの状況をこんなふうに捉えたということですが、そう捉えるしっかりした根拠がこの状況の中にあるでしょうか?」ということなのです。状況に即した認知になっているかどうか、状況を一面的に捉えていないかどうか、という点を自己点検してもらうための質問なのです。したがって、全て、具体的な「状況」が存在しているということが前提になっているのであり、これこそが自動思考が状況依存的である、ということなのです。

自動思考をキャッチするためには

 自動思考が具体的であるということは、地図で喩えてみると、日本地図ではなく、都道府県の中の市町村レベルの地図である、ということです。すなわち、かなり高い視点から捉えたものではなく、もっと低い、地上に近いレベルから捉えたものである、ということです。
 この喩えからも分かるように、実は具体的というのは現実に近い、ということなのです。逆に抽象的とは現実から遠い、ということです。自動思考というのは、状況に近い認知ということです。したがって、きちんと状況を反映したようなものになっているか、状況を歪めて反映していないか、という点を点検して、歪めて反映しているのであればより現実に近いものに改めていこう、というのが認知再構成法の目指すところなのです。
 このような具体的な認知である自動思考をしっかりとキャッチするためには、セラピスト側が詳しく質問していく必要があります。漠とした、抽象的なレベルでしかとらえられていないのであれば、もう少し詳しく説明してもらうように働きかける必要があります。

 以上今回は、CBTでは考え方を変えると言いますが、その考え方というのは自動思考のことであり、状況対応した具体的な認知のことであるということを説明しました。

京都大学でドイツ観念論哲学とその日本への影響を学ぶ。社会人経験後、認知行動療法の第一人者である井上和臣先生の指導を仰ぐために、鳴門教育大学大学院に進学。この頃からマインドフルネスの実践と研究を始める。 大学院修了後、長岡病院に入職。大阪経済大学・花園大学・立命館大学の非常勤講師、EAP研究所の客員研究員などを兼務。少年院へのマインドフルネス導入の助言も行っている。認知行動療法やマインドフルネスの研修をこれまで100回以上担当。 2020年1月に哲学心理研究所を開業。

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